『ワンダーウォール』は、京都にある大学の学生寮を舞台に、老朽化によって建て替えを望む大学と、それに反対する学生寮の住人たちを描いた作品だ。こう書くと単なる学生と大学の対立に見えるかもしれないが、むしろ同作では、正当な手段をとっても声がどこにも届かないむなしさを描いている。 主人公のキューピー(須藤蓮)は、高校生のときに100年以上の歴史を持つ京宮大学の学生寮「近衛寮」にひとめぼれのような感覚を持ち、学生たちが寮の自治をしているところにも惹かれて京宮大学を志望した。寮生たちは自分たちで考え、自分たちの合意のうえでその寮を運営していた。年齢問わず敬語は禁止、トイレはオールジェンダーなど寮独自のルールが形成され、だからこそ、寮の学生たちは好きなように暮らし、そこには自由があった。 近衛寮の存続をめぐる大学側と寮生の議論は約10年にわたって続いていたが、やがて変化が訪れる。新しい学生課の部長は勝手