〜言葉のダシのとりかた〜 長田弘 かつおぶしじゃない。 まず言葉をえらぶ。 太くてよく乾いた言葉をえらぶ。 はじめに言葉の表面の カビをたわしでさっぱりと落とす。 血合いの黒い部分から 言葉を正しく削ってゆく。 言葉が透きおとってくるまで削る。 つぎに意味をえらぶ。 厚みのある意味をえらぶ。 鍋に水を入れて強火にかけて 意味をゆっくりと沈める。 意味を浮きあがらせないようにして 沸騰寸前サッと掬いとる。 それから削った言葉を入れる。 言葉が鍋のなかで踊りだし 言葉のアクがぶくぶく浮いてきたら 掬ってすくって捨てる。 鍋が言葉もろともワッと沸きあがってきたら 火を止めて、あとは 黙って濾しとるのだ。 言葉の澄んだ奥行きだけがのこるだろう。 それが言葉の一番ダシだ。 言葉の本当の味だ。 だが、まちがえてはいけない。 他人の言葉はダシにはつかえない。 いつでも自分の言葉をつかわねばならない。 と