『渇きと偽り』(早川書房) オーストラリアといえば、豊かな自然や農作物を連想させられ、観光に向いた穏やかな国というイメージを抱いている人も多いのではないだろうか。しかし、実際には激しい日照りが産業を脅威にさらし続けている、厳しい一面を持っている国だ。特に農村地帯に足を運べば、生活苦にあえいでいる人々も少なくない。 傑作サスペンス小説『渇きと偽り』(早川書房)の原題もまた、“THE DRY(渇き)”である。オーストラリア人からすれば特別な響きを持つこの単語を冠した本作は、新人のデビュー作でありながら既に世界中でベストセラーとなっている。オーストラリアの農村の現状と、忌まわしい過去を巡るハードな物語は、日本でも多くの読者を惹きつけるだろう。 農場がこれまで死と無縁だったはずはないし、黒蝿たちはえり好みしなかった。動物の死骸だろうと人間の遺体だろうと、黒蝿にとっては大差なかった。 本作の衝撃的な