『昭和の店に惹かれる理由』(井川直子/ミシマ社) ちょっと前にあったはずの店が、あっという間に別の店に変わっていたなんてよくあること。おいしいだけ、サービスがいいだけでは生き残れない、同じ場所で長く商売を続けることのむずかしさをとりわけ感じさせる飲食業界において、昭和の時代からずっと愛され、客足の絶えない名店にある「何か」を探ったのが『昭和の店に惹かれる理由』(井川直子/ミシマ社)だ。 「食」や「飲」に関わる人々や、店づくりなどを取材している中、かつての日本にあった「高い精度を真面目に求める心」が、もはや幻想になりつつあると感じていた著者は、四角いところを四角く拭くような「きちんと」のメンタリティを感じることのできる、昭和の店の仕事を知る「旅」に出る。その「旅」の中で、とくに強く心を動かされたのが、本書に登場する10軒だったという。 例えば、湯島にある居酒屋「シンスケ」でスポットを当ててい