『蜜蜂と遠雷』(恩田陸/幻冬舎) 文字を追っているはずなのに、音楽が聴こえてくる。読者は時にコンサートの聴衆になり、時にピアニストにもなれる。メロディが聴こえてきたら、次は映像まで浮かぶ。聴覚と視覚が、文章に喚起される。そんな「新体験」をもたらす無二の作品だった。 『蜜蜂と遠雷』(恩田陸/幻冬舎)は、直木賞と本屋大賞をダブル受賞した史上初の長編小説である。 「芳ケ江国際ピアノコンクール」は、多くのピアニストが集まる著名なコンペティションだ。予選は第1次から第3次まであり、本選を含めれば実に1週間以上にわたる長丁場の激戦を得て、ピアノに人生の全てを懸けた若者たちが優勝を勝ち取る。 本作は、その芳ケ江国際ピアノコンクールに出場した4人の若者たちを追う青春群像小説だ。 養蜂家の父とともに各地を転々として暮らし自宅にピアノを持たない超天才少年、16歳の風間塵(かざま・じん)。 国内外のジュニアコン