もう、うんざりだった。 新潟県南魚沼市の山中、標高780メートル付近。国道291号をたどり、群馬県境へ向けて歩いているはずなのに、30分は前後左右、上下、あらゆる方向から生い茂る草木をかき分けていた。まるで密林の海を潜っているようで、あてどない。全身から汗が噴き出す。自然に没した道に対し、頭で恨み言を繰り返していた。ニクイ、291。 「脱出しよう」。国道からの脱出なんておかしいが、もはや限界だった。沢音が聞こえる方へ、灌木(かんぼく)につかまり急斜面を落ちるように下った。突然視界が開けた。足元がすっぽり切れ落ちる崖の上に出てしまったようだ。眼下の沢までは8メートルか。登り返すことも下ることもできない。冷や汗なのか、汗の量が増す。カニ歩きで木が生える斜面まで移動し、枝にしがみついた。背中からずり落ち、斜面をズルズルと滑りながら、なんとか沢までたどり着いた。爪の中まで泥だらけになりながら、なん