58年前に逮捕された袴田巌さんにようやく再審無罪判決が言い渡された。静岡地裁が「証拠の捏造」と断じた自白調書はどのように作られたのか。当時の静岡県警の記録をたどった。 【写真・図解まとめ】イチから分かる「袴田事件」 静岡県警清水署の取調室は近くに幹線道路が走っていた。防音設備が整っておらず、時折届く車の走行音が会話の邪魔をした。 広さ8畳の空間で、当時30歳だった袴田巌さん(88)は警察官と向き合っていた。 「ほんとに無関係だよ」 「なぜ殺さなきゃいけないんだよ」 4人を殺害した容疑で逮捕された1966年8月18日。袴田さんは繰り返し「ぬれぎぬ」を訴えたが、警察官は聞く耳を持たなかった。 殺害されたのは、袴田さんが勤務するみそ製造会社の専務一家4人だった。 現場の状況から金品の強奪目的だったことが疑われた。会社の従業員で、アリバイがなく、手の指に傷があるとして、程なく袴田さんが捜査線上に浮