大西巨人氏が亡くなった。『神聖喜劇』は戦後日本文学が生み出した巨峰である。氏の偉業を悼み、以前『理想』誌に書き、その後拙著『神学・政治論』(勁草書房)所収の私の神聖喜劇論を掲載しておく。 [革命的主体について――『神聖喜劇』論] 戦闘激烈ニシテ死傷続出シ或ハ紛戦ヲ惹起(ジャッキ)シ命令徹底セザルカ又ハ指揮官ヲ失フモ兵ハ戦友相励マシ益々(マスマス)勇奮率先其ノ任務ニ邁進スベシ。若シ敵兵我ガ陣地ニ侵入シ射撃不能ニ陥ルモ自己ノ銃剣ニ信頼シテ格闘シ縦(タト)ヒ最後ノ一人トナルモ尚毅然トシテ奮戦シ火砲ト運命ヲ倶(トモ)ニスベシ。 (戦闘間兵一般ノ心得) 危機において、例外状況においてこそ、物事の本質が露呈するという主張は、必ずしも常に正しいとは限らないとしても、国家というこのつかみどころのない実体に関して言えば、戦争という例外状況の中に、その本質の一端があらわになるということは、なお真理