“もちろん、熟達者になるためには多くの努力が必要である。私たちはなかば冗談めかして、さまざまな分野で一人の人間が熟達者になるためにはどれほどの時間がかかるかということをよく話しあう。心理学的な常識からすると、熟達に至るまでには五百時間、千五百時間、五千ないし一万時間といった三つの壁があるように思われる(もちろん、この数字は大ざっぱな目安にすぎない)。最初の五百時間は初心者の段階である。英会話でも、五百時間習ったところでやっと初心者卒業ということであろうし、生け花も初心者の域を抜け出るには、五百時間はやらなくてはダメだといわれる。千五百時間やると素人ではかなりうまいほうになる。ピアノを千五百時間弾いた人は、素人としてなら人前で弾くことができるかもしれない。英会話も千五百時間を越すころから急に上手になっていく人が多い。しかし、本当の意味で熟達者になる、つまり、内的な評価の枠組ができあがるために