田口かおりさんの連載「1966年11月4日、フィレンツェ――アルノ川大洪水の被害と復興の道のり」の第2回目をお届けします。著作権は田口さんにありますので、無断転載はお断りいたします。 目 次 はじめに 第1回「前夜―11月3日」 2. 溢れた川:11月4日 11月4日、午前0時過ぎ。 トスカーナ地方の各地で崖崩れが発生していた。郊外に住む人々は、すぐ近くにまで迫っているらしい水の気配に恐れをなし、屋根の上へとのぼるべきか否かを思案しはじめていた。古代都市エトルリアの首都であったアレッツォをはじめ、アルノ川中流に臨む美しい街の数々は、すでにフィレンツェと連絡がつかない状態にあった。 一方、フィレンツェの中心街に住む市民の一部は、まさか川が氾濫するまでの事態になるとは夢にも思わず、雨音を気にしつつも夜ふかしを楽しんでいたらしい。というのも、11月4日は第一次世界大戦勝利記念日であり、本来であれ