Prologue —————————————————————————————————— 「インターネットの可能性を確信したのは、やっぱり、阪神大震災。」 ようやく訪れる気配を見せ始めた春の光が射し込む電通ビルの高層階で、 わたしの問いかけに“さとなお”こと、佐藤尚之さんはそう答えた。 おそらく何度となく人に聞かれ、自分の中でも思い直してきたのであろうその言葉は 穏やかながら、凛とした断定だった。 奇しくもそれは、3月8日―あの東日本大震災の、3日前のことだった。 あの日のあとに、それまでの世界の事を語るのは、とても困難なことのように思う。 地震、津波、原発、帰宅困難、計画停電、買い占め… そういった物理的な震災と二次災害のなかにあったのは、誤解を恐れずに言うならば 協力、団結、世界の賞賛、フラストレーション、言葉に塗られた集団躁鬱に近い状態だった。 約2か月が経ったいま、わたしたちはそこか