血盟団事件 [著]中島岳志 冒頭から一気に引き込まれた。話は五・一五事件で元陸軍軍人の西田税を狙撃した血盟団員・川崎長光へのインタビューから始まる。血盟団事件の関係者が存命していたことにまず驚いたし、本人を探し出して話を聞き出したところに著者の並々ならない気魄(きはく)が感じられて目が離せなくなった。 血盟団事件とは昭和7年に宗教家井上日召に率いられた若者たちが引き起こした連続テロである。元蔵相の井上準之助と三井財閥総帥の団琢磨が暗殺され、陰惨なテロの時代の引き金を引くことになった大事件だ。血盟団というおどろおどろしい名前の得体(えたい)の知れない集団が、「一人一殺」という禍々(まがまが)しいスローガンを掲げたことで、この事件には暗い昭和のイメージが強くまとわりついている。 時代はちょうど世界恐慌の影響で経済が悪化の一途をたどった頃だった。農村は貧しさで疲弊し、富を独占する財閥と無力な政党