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向いていない男|まささん
家に入ると家族はもう寝ていて、家のなかは暗く静かだった。高層マンションの七階なので、周囲の騒音も... 家に入ると家族はもう寝ていて、家のなかは暗く静かだった。高層マンションの七階なので、周囲の騒音も何も聞こえない。 玄関の照明はだんだん明るくなるタイプだ。手探りでスイッチを点け、靴を脱いだ。まだ完全に明るくなりきっていない玄関に上がったとき、誰かがいるような気がして、視線を上げてしまった。普段は見ないようにしていた。 姿見に映った男を見てぞっとした。 姿見の男は、初夏で街行く人が軽装になっているというのに、まだスーツの上にトレンチコートを着ていた。顔にはほうれい線が深く刻まれ、額がいっそう禿げ上がっていた。コートの上からでも、身体の筋肉がそげ落ちているのが分かった。達観した老人の清らかさはなく、唇は生肉を食べたように脂ぎっていた。 我ながらひどい顔だ。 頬をなで回しながら姿見に近づき、よく顔を見た。そのうち照明の照度が最大になった。姿見の顔もいつもの中年の男になった。 三年前、会社で課長に