冒頭はいきなり天使降臨による日常の壊滅だ。もはや地上には安全な場所はなく、菱屋修介は自らの妄想がつくりだした「月世界」へと逃げこむ。そして、現実が分岐する。 修介がもといた日常は、章題では「世界n」と示されている。 一方、分岐した現実のひとつ「世界n+1」では、ニホン語が失われている。もとからそんな言語など存在しないというのが言語学者のあいだでの定説だ。敗戦によりニホンの公用語は英語になったが、それ以前から上位言語として英語は使われており、そのほかに何種類かの俗語があったらしいがそれらは口語だったので文献は残っていない。 この定説に異を唱える異端派もいる。言語学研究を進めるなかで直感的にニホン語に行きあたった者、あるいは政治的運動のなかでニホン語隠蔽の陰謀(?)を疑う者。「世界n+1」での物語は1975年で進行し、当時の世相が大きな影を落とす(その雰囲気に多くのSFファンは山田正紀『神狩り
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