寿司は日本料理を代表する食べ物のひとつだが、いなり寿司はまだそれほど知られていないかもしれない。だが、とある漫画をきっかけにいなり寿司を知ったフランスのジャーナリストが、黄金色の料理を求めて街へ出る──。 どうしても食べたい、いなり寿司 私が初めていなり寿司と出会ったのは、片目に傷をもつ、むっつりした大将の店でのことだ。 このやくざな男の店はやくざな場末の食堂で、そもそもお品書きには豚汁と酒しかない。足音を立てずに店に入るも、そこで食べているものが好きになるかどうか、そのときはまだ確信がもてていなかった。 十代だった頃の私は、むさぼるように漫画を読んでいた。だが、そんなものは真面目に読むようなものじゃないよという大人たちの警告を聞き、大きくなるにつれて漫画から遠ざかっていた。 どうしてこんな話をするかというと、東京のいかがわしい界隈にあるこの謎めいた食堂というのは、実はページ上に存在する飯