経済学者のタイラー・コーエンは、自身のポッドキャスト番組に社会心理学者のジョナサン・ハイトを招き、悪化が懸念される子供たちのメンタルヘルスについて議論を交わした。 親の政治的信条が子供に与える影響はあるのか、SNSに人類が適応するのは可能なのか──などコーエンが投げかける話題は多岐に渡る。 米国を代表する知性二人による刺激的な対話から見えてくる私たちの未来とは?
アイジャはそれまでもたくさんのイマジナリーフレンドを作ってきたが、彼女が2歳になる頃に現れた「ニナ」は、他とは明らかに違っていた。 アイジャによるニナの説明はつねに一貫していた。アイジャいわく、ニナは悪い人たちが自分を捕まえにくること、そして食糧が足りなくなることを恐れているという。ときにはアイジャ自身がニナとして話すこともあった。 母親のマリーがフードプロセッサーを使っていたときのことだ。アイジャはその音に怯え、「戦車をここから出して!」と叫んだ。なぜ娘が「戦車」という単語を知っているのか、マリーは不思議に思った。 またあるときには、アイジャはこう言った。「ニナの腕には数字が書かれていて、それがニナを悲しくさせるの」。そしてその数字が書かれていたと思われる場所を指差しながら、「ニナは家族が恋しいの。ニナは家族と引き離されちゃったのよ」と言った。 ホロコーストのことなど何も知らないはずの娘
メンタルヘルスや心理学など、脳に関する記事を多く書いてきた筆者は、自分が頭のなかで視覚イメージを描けない「アファンタジア」であることを知る。彼女の記憶や物事の感じ方は、アファンタジアでない人々とどう違うのか? 人口の約4%にあるともいわれる、この症状に迫る。 これって「普通」じゃないの? 自分がアファンタジアだと気づいたのはたまたまだった。ずっと「心の目」が見えないまま生きてきたら、何かを思い出したり未来を想像したりするときに視覚的なイメージがいっさい浮かばなくても、まったく普通だと思うだろう。 2年前、私は瞳孔測定(認知状態を知るために瞳孔を測定すること)についての記事を書いた。その記事で私は、ニューサウスウェールズ大学の心理学者・神経科学者のジョエル・ピアソンが、瞳孔をバイオマーカーとして用いてアファンタジアの診断をしようとしていることに触れた。この症状は、全人口の3.9%にあると考え
「知ってるはずなのに…」 初めて経験するはずのことが、なぜか以前にも経験したように感じられる──「既視感」、あるいは「デジャヴ」と呼ばれるこの現象はよく知られており、実際に体験したことのある人も多いだろう。 しかし、デジャヴの反対ともいえる「ジャメヴ」という現象についてはあまり知られていない。2023年、このジャメヴについての研究が、「人々を笑わせ、考えさせた研究」に贈られるイグノーベル賞を受賞した。 研究チームのメンバーで心理学者のアキラ・オコナーとクリストファー・ムーランによれば、ジャメヴとは、「見慣れているはずのものが、何らかの形で非現実的、または新しいものに感じられること」。
叱る、お願いする、約束する、罰を与える──何をやっても言うことを聞かない子供を前に、途方に暮れる親は世界中にいる。心理学や児童精神医学を専門とするアラン・カズディン教授は、そうした親に、子供が「思った通りに行動してくれる」方法を伝授しているという。そのメソッドについて、仏紙「フィガロ」が取材した。 「成果が出る手法」をまとめた育児書 3歳の子供が皿の上でエンドウ豆を潰し、それを入念に広げている。 「いい加減にしなさい。早く豆を食べなさい」 母親の注意は、これでもう三度目だ。それでも子供はむずかる。 「ちゃんと食べなさい。そうしないと……」 今度は父親が脅しの言葉を口にした。すると途端に子供は癇癪を起こし、わめき散らす。わめきたいのはこっちだと親は思うが、夕食の時間が台無しになってしまったことに変わりはない。 「イェール育児センター」のアラン・カズディンは、親たちからそんな話を毎日聞かされて
痛ましい事故や事件が絶えないにもかかわらず、米国人はなぜ銃を手にするのだろうか? 銃を持つことが権利として認められている米国で人々がこの武器に手を伸ばす理由を、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が心理学的な視点から読み解いた。 2020年、新型コロナの感染拡大によって多くの地域がロックダウンされ、抗議デモが街頭にあふれ、経済不安と社会的孤立が深まった。 そうしたなか、米国人がこぞって買い漁ったものがある。銃だ。 その年、銃の販売数は約2200万丁と、2019年から64%増を記録した。銃器産業の業界団体である全米射撃協会によれば、そのうち800万丁以上が、それまで銃を所有したことのない人に売られたという。 同年、銃による殺人件数も、2019年の1万4392件から1万9350件に増加した。自殺を含む銃による死亡者数は、2019年の3万9702人から4万5222人に増えた。2021年には銃による死亡
「人は変わらない」とも言われているが、最近の研究では、人はおおよそ60歳を超えた頃から再び性格が変化しはじめることが示唆されている。 その要因には認知障害などの脳の変化もある。だが、そのような症状がない場合の「別の要因」が注目を集めている。 研究によれば、人は高齢になるにつれ、経験に対するオープンさや「社会的活力」と呼ばれる外向性が減少する傾向があるという。そして、特に人生の終わりに近づくと、神経症が増加する傾向もあるという。 この理由については、いくつかの理論が存在し、可能性のひとつには、退職、子供の巣立ち、伴侶に先立たれるなど、高齢期に起こりやすい特定のライフイベントによって性格が形成されるというものがある。 ただこれについては、仮に「別れ」を経験したとしても、その感じ方は人によってさまざまであり、一概に前述のような外交性の減少を説明するものとは言えないとの指摘もある。それよりも、健康
ロビン・ダンバーは、英オックスフォード大学の進化生物学の名誉教授であり、人類学者でもある。彼は、一人の人間が持てる友達の数は150人が最大だという「ダンバー数」の提唱者として世界的に有名だ。また、飲酒やゴシップが人間関係の円滑化に決定的な役割を果たすことを示した研究でも知られる。 ダンバーの著書『なぜ私たちは友だちをつくるのか: 進化心理学から考える人類にとって一番重要な関係』は、友情研究の名著である。一般人にもわかりやすく、この数十年の研究結果が紹介されている。そんな彼に「会話が成立する最大人数は4人」「友情の七本柱」や「30分ルール」といった話に加えて、男の友情と女の友情の違いといった、最近はタブーになりつつある性差の話についても語ってもらった。 友達の数が多いことは、禁煙と同じくらい健康に良い ──友達がいると幸福度が上がりますが、それだけでなく健康や寿命にもいい影響が出るそうですね
その秘訣はサウナか、自然か──。「世界一幸せな国」の幸せの秘訣を探しに、2023年度版「世界幸福度ランキング」19位の英国から、ライターのルーシー・ピアソンがフィンランドへ旅立った。彼女がそこで見つけたのは、日本(47位)に暮らす私たちも知っておきたい、フィンランド人の“心の持ち方”だ。 「フィンランドの湖水地方で開かれる、“幸せ”のマスタークラスに参加しないかって声をかけられてる」。そう話すと、友人たちは驚いてこう言った。「待って、ルーシー。世界でいちばん幸福な部類のあなたが、フィンランド人から何を学ぼうっていうのよ」 なるほど。私は「コップにはまだ水が半分もある」と言ってはうざがられるタイプ。フィンランドの人たちはなぜ世界でもっとも幸福度が高いのか、それを教わりにわざわざ4日間の旅に出るとは、どういう風の吹き回しか。それでも根っからの極楽トンボの私は、その誘いを快諾した。 英国には、幸
今年の冬は、屋内での集まりは禁止こそされないとしても、あまり良しとはされないだろう。いつもなら、冬の寒さと暗さを避けようと、人々は屋内で過ごそうとする。しかしそれも安全にできないなら、いったいどうしたらいいのだろう? インスピレーションを得るために、スカンジナビアに目を向けてみよう。スカンジナビアの人々は、他の地域よりも長く暗い冬を過ごしているにもかかわらず、彼らの幸福度はつねに世界でもトップレベルなのだ。 なぜそんなことが可能なのだろうか? 私たちは、彼らから何を学べるのだろうか? 暗く長い冬でもうつ病にかかる人が少ない理由 心理学者である私は、数年前、これらの問いの答えを求めて北極地方に移住した。この地の長い冬を、人々がどのように乗り切るのかを知るために、私はノルウェーのトロムソにある大学へ赴いた。この大学は、世界でもっとも北──北極圏の200マイル以上北──にある大学だ。
リビングの床で、とぐろを巻いた蛇のように放置された掃除機──私はそれを、我が家の崩壊を象徴するイメージとして記憶することになるだろう。 昔からこの部屋が大好きだった。南向きの大きな窓から差し込む日差しは、冷え込んだ冬の日でも私の顔を温めてくれる。でも、今日の真夏の日差しには息が詰まりそうだ。 木々の葉は完璧な輝きを見せ、空は青く澄み渡っている、そんな朝だ。外の世界はこんなにも美しいのに、私の世界はバラバラに砕け散りそうだ。 ついさっきまで、家事の分担のことで夫と喧嘩していた。あまりにもイラつくと、私はついステレオタイプ的な行動をとってしまう。電話をする彼の周りで、掃除機をかけまくるのだ。 でも、今朝は違う。彼が隣に座ってくれと言ってきた。何か大事なこと、個人的なことを話したいという。私は掃除機を床に置きっぱなしにする。 彼の隣に座り、黙って耳を傾けながら、彼の手を握る。夫は自分が10代の頃
気分が落ち込んでいたり孤独を感じていたりするとき、ますます自分の殻に閉じこもりがちではないだろうか。それは私たちが人付き合いについて誤った思い込みをしているからだと、米ジョージタウン大学教授の心理学者が説く。 先日、ある患者に「助けが必要なときに電話できる人はいるか」と尋ねたら、こう返ってきた。 「誰もいません」 こうしたケースは珍しくない。臨床心理士として日々患者を診ている私は、孤立している人が増えているのを感じている。 ピュー・リサーチ・センターが2022年9月に実施した調査によると、米国の成人の42%が、過去1週間に少なくとも1日か2日、孤独を感じたと回答した。孤独は、鬱病、人格障害、自殺、認知症、心血管疾患、さらには早世のリスクを高めることが明らかになっている。 孤独は、自ら望んで一人になることとは異なる。行動科学者は孤独を「自分の社会的欲求が、とりわけ人間関係において質的に満たさ
世界的に有名な心理学の投映法検査「ロールシャッハテスト」がどう作られているのかなど考えたことがあるだろうか? これまで非公開だったその制作過程を世界で初めて撮影することが許された英国人の芸術家ジェレミー・ミラーが、決定的な条件のもとで取材記事を書いた──。 1世紀以上にわたり複製され、何百万もの人々に凝視されてきたイメージのわりに、ロールシャッハのインクブロット(インクの染み)はかなり謎に包まれている。 厳重に保護され、かつすぐに見分けがつくこの有名なカードは、心理学的診断のために世界中で使われ続けている。新版は5年ごとくらいにしか印刷されず、その過程を記録することを許された者はいまだかつていない。だから、その過程を記録できないかと出版社に問い合わせたときも、まさか了承してくれるとは予期していなかった。 条件がもちろんいくつかあった。なかでも最も厄介だったのが、ロールシャッハのインクブロッ
私たちは自分で自分の遺伝的資質に合わせている ──DNAによって私たちの性格が形作られていることに関心を持ったのはなぜですか。 人生を振り返ってみたとき、分岐点のような瞬間があったと考える人は多いですよね。私はシカゴの中心街で育ちました。大学がどんなところなのか知る人は、家族にはいませんでした。大学に進学すれば奨学金がもらえると進路指導の担当者に教えてもらい、これは良い話だと考えてテキサス大学に出願したんです。 そのときは、この大学が行動遺伝学を必修科目とする世界唯一の大学だとは知りもしませんでした。ですが、「生涯を通じて行動遺伝学に取り組みたい」と思うようになるまで時間はさほどかかりませんでした。 クラスには30名ほどの学生がいましたが、行動遺伝学を面白がっていたのは私だけでした。おそらくそれは私の性格によるものでしょう。私は主流に歯向かうのが好きです。心理学にとって、遺伝は重要だと私は
ハウイーが地元の教師やラビに勧められてニュージャージー州のスティーブンス工科大学(SIT)が実施するテストを受けたのは13歳のとき。テストは、性格、職業上の技能、願望などに関するものだった。彼の知能は高そうに思われたため、両親はそのレベルを知りたかったのだ。だが、ハウイーに突出した「事務能力がある」とSITの臨床医長に告げられるとは、誰も予想していなかった。 「どうやら私が得意とし、とりわけ上手くこなしたのは、当時も今も私が“機械的”とみなす作業だったようだ」と、ハウイーことハワード・ガードナー教授(79)は記している。ちなみにこのテストは、「訓練されたサルやハトにもできるような」ごく基本的なパターンを識別する設問からなっていた。 自己を肯定するためか、それとも事務の仕事に就く将来を避けるためか、ガードナーは心理学を学ぶことにした。そしてその後、まさに子供と大人の認知能力について研究するよ
「二人とも働いているのに、夫は家事もあまりしないし、子育ても任せきり……」。そんな不満を聞いたことがあるのではないだろうか。なぜ男女で家庭内の仕事を平等に分担できないのか、その理由について英国とオーストリアの心理学者が新たな調査結果を発表した。 男女で異なる物の見え方 ジャックとジルというあるカップルについて想像してみよう。二人とも働いていて、「家事は平等に負担する」と約束している。しかし、家庭内の物の見え方が、二人では違っていたとしたらどうだろうか。 キッチンが散らかっていたとする。ジルはそれを見て、食器を洗わなくては、いっぱいになったゴミ箱の中身を捨てなくてはと考える。ジャックも流しに皿があり、ゴミ箱がいっぱいになっていると認識する。だが、彼はそれに対応しなければいけないとは考えない。 最近の研究の結果、散らかった家を見たときの行動は、社会的に刷り込まれていることがわかった。それが男女
性格、素質、才能は生得的なものである──そうした考え方が、差別や抑圧に利用されることは確かにある。そのような不正義に対する恐れから、最近では、先天的な心理的特性に関する研究そのものを抑制しようという動きも一部で見られる。 しかし、先天的な心理的特性を研究するイーリス・ベレントは、科学研究そのものを抑制しても社会悪がなくなるわけではないと考える。精神の先天的要素も、身体の先天的要素と同等に科学的に扱うべきだと論じるベレントは、なぜ人々が「精神」と聞くと身構えてしまうのかについても、鋭い分析をおこなっている。 子育てをしていると、人間の素質についていろいろと考えさせられることがある。何人かの子供がいる人は、子供たちひとりひとりの違いに早い段階で気づくかもしれない。私の息子は幼い頃、初めて音楽を聴いたとき、目を大きく見開いて真剣な眼差しになった。私の娘は幼い頃から、明らかに社交的な性格だった。生
何か単純作業をしているとき、気づけば「心ここにあらず」だったという経験に心当たりはないだろうか。「マインドワンダリング(心の迷走)」と呼ばれる人の心理状態を長らく研究してきた心理学者に、科学的知見を一般向けに伝えるメディア「ノアブル・マガジン」が聞く。 「アニュアル・レビュー」のデジタルメディア「ノアブル・マガジン」に掲載された記事を許可を得て翻訳・掲載しています。 心理学者のジョナサン・スモールウッドが四半世紀ほど前に、マインドワンダリング(心の迷走)について研究しようと決めたとき、それを妙案と思う仲間はほぼいなかった。 人が身の回りのことや目の前の作業に注意を払うのをやめたときに自ずと生じる気まぐれな思考など、どう研究できるというのか。そうした思考は、測定可能で、目に見える行動となんら関連しえないというのに。それでも、スモールウッドは研究を進めた。 その研究では、被験者におそろしく退屈
友人やパートナーや家族、あるいは同僚が動揺しているとき、相手の気持ちを楽にしてあげるにはどうするのがベストかと、考えたことがあるだろう。 愚痴ってもらう? チョコレートをあげる? 思いきり泣けるよう、そっとしておく? 理想的なやり方は、相手と文脈によると専門家らは言う。だが、人の気持ちを落ち着かせる最強の方法のひとつが、限られた数ながらも近年増えている研究から示されている。それは、話しかけることだ。 言葉は、人の気持ちを方向づけるうえで強力な役割を果たす。人間はそれだけ社会的な動物種なのだ。 人の脳は他者から得る情報に鋭敏に同調し、「その情報を絶えず意見として用いて、行動と反応を変えています」と言うのは、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学博士課程に在籍するラジア・サヒだ。彼女は、社会的な交流が人の感情にどう影響するのかを研究している。
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