去年、半年間をかけて、ロザリンド・クラウスの『独身者たち』(原題 BACHELORS, 1999)を訳した。まだ編集者と交渉中で、出版がいつになるかは未定という段階だが、ここではこの本の紹介をする。 ロザリンド・クラウスは、ポストモダニズムの美術批評家である。『オリジナリティと反復』(1985)から『パーペチュアル・インヴェントリー』(2010)に到るまで、すべてはここからはじまり、ここに帰着する。彼女の美術批評の方法は、つねに「モダニズム」との距離から導出されている、という意味だ。 クラウスは、戦後のアメリカの美術批評界で圧倒的なヘゲモニーを握っていたクレメント・グリーンバーグ、そして彼が提唱する「モダニズム=フォーマリズム」の影響下で活動を開始したが、その後袂を分かち、彼女独自の批評理論を展開していく。「モダニズム」の批評論理とは、美術作品の個々のメディウム固有の特性を重視するもので、