[ cinema , cinema ] 目の前に映る登場人物たちに、僕たちはそれぞれの行動原理や動機を求めたがる。登場人物の頭に、必ず「なぜ、どのようにして」といった簡単な疑問詞を投げかけるのだ。行動原理や動機が説得される場面に出くわすと、僕たちはそのフィルムの浄化作用(=カタルシス)に触れ、ポンと膝を打ったように満足感を覚える。だけどカタルシスは時に迂回し、見え隠れするものだ。そう最初からたやすく目の前に現れてくるものでもない。一度全編を通して見てもわからず、二度目にやってくるカタルシスもあるだろう。そうしたカタルシスの行方や存在そのものに対し、見事な一石を投じた刺激的なフィルム。それがこの『ホーリー・モーターズ』だ。 オスカー(ドゥニ・ラヴァン)には数々の「アポ」が存在する。白塗りのリムジンのなかで運転手のセリーヌ(エディット・スコブ)から渡される、ひとつひとつの「アポイントメント」。