著者: 井上章一 「玄関で靴を脱いでから室内に入る」。日本人にとってごく自然なこの行為が、欧米をはじめ海外ではそれほど一般的なことではない。建築史家であり『京都ぎらい』などのベストセラーで知られる井上章一さんが、このなにげない「われわれのこだわり」に潜む日本文化の隠された一面を、自らの体験と様々な事例をもとに考察する。 ブラジルの病院では 外国の病院で、手術をうけたことがおありだろうか。私はある。 二〇〇四(平成一六)年のことであった。場所はブラジルのリオデジャネイロ。私は街で転倒し、顎を地面にうちつけた。そのため、裂傷をおっている。顎の肉に、そう浅くもない裂け目ができた。出血もとまらない。 地元の人たちは、すぐ医者にみてもらえと言う。また、ふさわしい病院を推薦してくれた。彼らのすすめにしたがい、私はそこへ直行する。 日本人の私に、気をつかってくれたのだろうか。病院では、日系人の外科医に治