□『日本統治時代を肯定的に理解する 韓国の一知識人の回想』 ■親善に繋がるとの渾身の思い 1926年に京城(現ソウル)に生まれ、20歳で終戦を迎えるまでの20年間の日本統治時代を回想した本書は端正な日本語で綴(つづ)られている。「僕」という一人称で書かれ、さながら一篇(いっぺん)の青春小説を読むようだが、なかでも印象深いのは京城師範付属小学校、旧制京畿中学で教わった日本人教師の思い出が敬愛をこめて語られていることだ。クセのある先生もいたが、みな教育熱心だった。 一別以来42年ぶりの恩師との交流が往復書簡のかたちで収載されている。警鐘を鳴らして走る路面電車。子供にも丁寧な日本人の歯医者さん。口絵写真には朝鮮の伝統服を着た著者の祖母や叔母たちが静かに微笑(ほほえ)んで写っている。ここにあるのは、現代化し始めた京城の、おっとりとした佇(ただず)まいのなかで営まれる穏やかな日常生活だ。