『第74回カンヌ国際映画祭』で脚本賞ほか4つの賞を受賞した、濱口竜介監督による映画『ドライブ・マイ・カー』。 村上春樹の短編集『女のいない男たち』に収録された3つの短編小説に映画オリジナルの展開とストーリーを巧みに織り合わせて生まれた、原作とはまた異なる強度の高い物語――原作を併せて読むと、この映画がいかにさまざまな演出と暗示を伴って練りに練られたものであることを実感いただけるかと思う。 石橋英子はそんな本作の映画音楽を手がけた。独特の緊張感と重みを携えた物語と並走する石橋の音楽は、ドライかつ優美で、寡黙ながらも素晴らしい効果をあげている。本稿では、石橋英子という音楽家が辿った作業過程とその成果である楽曲群、そしてその作家性を通じて、『ドライブ・マイ・カー』という映画に向き合った。 「良質であるが聴かれてはならない」(註1)。 石橋自身も影響を受けたとインタビュー中に語った『映画にとって音