ブックマーク / magazine-k.jp (125)

  • 新人(賞)の方法

    このたび、拙作「反偶然の共生空間――愛と正義のジョン・ロールズ」が第59回群像新人評論賞優秀作に選ばれた。関係者のみなさんに感謝しつつ、こういう経験は(少なくとも私の人生のなかでは)あまりないものだから、記念のため、ワザというかテクというか、賞をとるための方法について、自分の書き方を中心に考えてみた。 100%の我流なので、あまり参考にならないかもしれないが、まぁ、軽い読み物として読んで欲しい。 「反偶然の共生空間」要約 拙作「反偶然の共生空間」は、ジョン・ロールズの『正義論』という有名な政治哲学のテクストを、偶然性を排除する想像力についての観点から読み直してみると色々発見があるかもよ、という論旨で読解したものである。 たまたま目が見えない体に生まれてきたよ。たまたま貧乏な家で育ったから満足な教育を受けられないよ。たまたま事故に遭って全身麻痺状態になっちゃったよ。偶然は人々を無根拠に不幸に

  • 村上春樹『職業としての小説家』への賛辞

    季刊誌「マグナカルタ」Vol. 02(2013年 春号)で、なぜ数多いる日人作家の中で村上春樹だけが突出して海外でも読まれているのか、というお題をいただいたことがあります。引き受ける際に「論と呼べるような持論は特になにもありませんが、なぜなのかを彼の人脈という点から種明かしをする形でなら書けます」とお答えして、それでもオーケーだということだったので、書きました(その時の原稿は『新・日人論』というアンソロジーに加えられました)。 村上春樹の小説だけが、海外で飛び抜けて売れるわけ その種明かしとは、「村上春樹のがこれだけ海外で、とくに欧米で売れるようになったのは、彼のバックに業界屈指のリテラリー・エージェントと、ランダムハウス傘下のクノップフという文芸の一流出版社と、村上春樹が翻訳を手がけたレイモンド・カーヴァーらの担当編集者がついているから」という、「論」とはおよそかけはなれたものでし

  • 『批評メディア論』から考える三つの〈com〉

    3月27日、東京堂書店にて、大澤聡と山貴光の対談イベント「言葉が紡いだニッポンの批評空間――装置としての神保町を再考する」が催された。 日の言論システムの根源を1930年代の膨大な資料から考える大澤初の単著『批評メディア論――戦前期日の論壇と文壇』(岩波書店、2015)に対し、『文体の科学』(新潮社、2014)のなかで和洋文理のジャンルを問わず領域横断的に文体分析をやってのけた山を対談相手に迎えることで、絶妙なアンサンブルが化学反応を起こしながら、盛況のうちに幕を閉じた。 このイベントの詳細は『週刊読書人』(4月17日)で文字化されるそうだ。 私はこのイベントをきっかけに、大澤の『批評メディア論』に関して三つの観点から少しばかり言葉を繰り広げてみたいように思った。私の三つの観点、それは三つの〈com〉について、つまりはコンプリートネス(completeness)、コミュニケーション

  • 「まちおこし小説」が投げかける文筆の公共性

    町に向き合って書くこと 特定の土地にこだわって書く作家がいる。 函館の物語を書き続けた佐藤泰志、紀州熊野を舞台にした「紀州サーガ」で知られる中上健次、最近だと大阪を書き続ける西加奈子がいる。多くの場合、作家と結びついた土地は故郷か居住地である。 その一方で村上龍のように横浜に住んでいながら、横浜らしさをまったく感じさせない作家もいる。過去においてはデビュー当時住んでいた福生の物語『限りなく透明なブルー』や、故郷・佐世保での高校時代を追想した『69』のように土地と結びついた作品をいくつか執筆している。しかし現在彼が住んでいる横浜を舞台として選んだ作品は寡聞にして知らない。たぶん村上にとって、横浜の郊外に向き合う必然性は希薄なのだろう。 では必然性がないにもかかわらず特定の土地を舞台にして書かなければならない場合、作家はどのような思考を経て作品をつくっていくのだろうか。 なぜこんな疑問を持った

  • 風刺とジャーナリズム

    フランスの週刊紙シャルリ・エブド(Charlie Hebdo)のパリ社で、1月7日午前中に発生した銃殺事件は欧州を中心に、世界中に大きな衝撃を与えている。同紙はあらゆる対象を風刺するメディアで、2011年にはイスラム教の預言者ムハンマドを風刺画の題材として取り上げ、火炎瓶を投げ込まれる事態を経験している。 今回は覆面姿の数人が編集会議中の部屋に押し入り、「アッラー・アクバル(イスラム教の)神は偉大なり」と叫びながら編集者や作家らを無差別に銃殺したと言われ、イスラム教批判の言論を封じたと解釈された。 権力者を徹底的に叩き、笑いのめす風刺画の存在 「表現・言論の自由を暴力で奪った」となると、西欧の感覚では社会全体への暴力攻撃、基盤を支える重要な価値観の否定と見なされる。2011年、ノルウェーで反移民・極右的傾向のある青年が77人を殺害する連続テロ事件を起こし、このときも欧州や全世界に大きな衝

  • 中国語繁体字の標準化にぶつかって

    今年の10月、私はサンフランシスコで行われるW3C主催のTPACというイベントとブック・イン・ブラウザ会議に参加するため、シリコンバレーに向かった。 太平洋を越えて台湾からアメリカ西海岸へ行くには、とても費用がかかる。数年前、私がまだ取材記者だった頃は、東京、香港、上海、サンフランシスコ、クパチーノなどで行われるIT企業主催のメディアツアーによく招待された。しかしいまや私は、収益の安定しないスタートアップ企業の経営者である。いちばん安い宿と航空券をみつけても10万台湾ドル(日円で約40万円)の出費となり、自分の事業になんら利益をもたらさないかもしれない旅行にとってはとても痛い。 そこで私は、9月に自分のブログに、この会議に参加しなければならない理由を書いた記事を投稿して資金援助を募り、ペイパルと銀行の口座を用意した。二週間もしないうちに、クラウドファンディングは成功した。 標準化の世界と

  • リアル書店で電子書籍を売るO2O事業が続々登場

    一般社団法人日出版インフラセンター(JPO)は6月16日、有隣堂ヨドバシAKIBA店で、「リアル書店における電子書籍販売実証事業」のメディア向け説明会を行いました。昨年12月22日に朝日新聞が「めざせ『ジャパゾン』」と報じたコンソーシアムが、実際に動き出したというわけです。 私は当時この報道を受け、「マガジン航」へ「リアル書店で電子書籍を売るということ」という記事を寄稿しました。「なぜいまさらコンソーシアムで実証実験?」と批判をした以上、どういう形で世に送り出されることになったかを確認する義務があると思い、説明会へ行ってきました。 有隣堂ヨドバシAKIBA店に足を踏み入れると、電子書籍カード「BooCa」のコーナーはすぐに目に付きました。なにせ、この大きさ。非常に目立ちます。まるでトレーディングカード売り場のようです。新刊が並んでいた棚を一つまるごと撤去し、カード展示用のブースに入れ替え

  • 三島由紀夫研究余話

    はじめに 私は、愛媛県松山市に在住しています。 これまでに『三島由紀夫と刺青』『三島由紀夫と橋家』『三島文学に先駆けた橋健行』『三島由紀夫のトポフィリア』『三島由紀夫と神風連』などの研究論文を、鼎書房が刊行する「三島由紀夫研究」に発表するとともに、エッセイや小説などを手がけてきました。 また、この六月に拙論を二つ発表しました。 一つは、「三島由紀夫と神風連――『奔馬』の背景を探る」で、「三島由紀夫・鏡子の家 三島由紀夫研究⑭」(鼎書房)に掲載されました。「三島由紀夫と神風連――『奔馬』の背景を探る」では、三島が『奔馬』を執筆したときの参考文献を踏まえて、三島と神風連関係者との深い繋がりや影響などを探りました。徹底的に熊人脈を調査して、「アッ」と驚くような結論に導くことができたのではなかろうか、と考えています。 もう一つは、「小説に描かれた『三島由紀夫』覚書」で、「現代文学史研究 第二〇集

  • いま改めて考える、出版社のレゾンデートル

    ── いまこそもう一度、電子出版に真正面から立ち向かうときだと思っています。 7月1日に行われた記者発表会で、株式会社ボイジャー 代表取締役 鎌田純子氏は述懐を込め、このような挨拶をしました。この日、池澤夏樹氏の作品の電子化・販売をボイジャーが手がけることの発表と同時に、電子出版Webサービス「Romancer(ロマンサー)」が一般公開されました。2011年に導入した「BinB」ブラウザビューワが「いつでも誰でも簡単に電子のを読める仕組み」なら、Romancerは「簡単に作る」役割を担っています。池澤氏とのプロジェクトでも使用しているとのことです。 Romancerは、昨年の国際電子出版EXPOの時点でクローズドβ版が公開されていましたが、正式版の公開で何が変わったのか、他社のサービスとは何が違うのか、そしてどのようなビジネスモデルにするのかを私は注目していました。鎌田氏は、ボイジャーが

  • キンドル・アンリミテッド登場は何を意味するか

    米アマゾンが定額読み放題サービス、「キンドル・アンリミテッド」を始めた。OysterやScribdといった他の定額Eブック読み放題サービスも既に始まり、TxtrやBlloonといった、どこの誰がやっているのかわからない同様の新参サービスもできはじめている。 も「定額読み放題サービスが主流」になるのか? デジタル時代に音楽配信がiTunesやMP3ファイルのダウンロードから、PandoraやSpotifyなどに代表されるストリーミングサービスに代わり、映画やTV番組がオンデマンドのケーブルサービスからNetflixGoogle Playなどのストリーミングサービスに代わってきつつあるのを目の当たりにすると、も当然、定額読み放題サービスが主流になっていく、と論じる者がいてもおかしくはない。 だが、当にそうだろうか。 いまのところ、キンドル・アンリミテッドが提供する60万タイトルのうち、

    キンドル・アンリミテッド登場は何を意味するか
  • 1 そもそも本ってなんだろう?

    昨年秋、「図書館」や「」にまつわる斬新な仕事をなさっている4人の方々(numabooksの内沼晋太郎さん、達人出版会の高橋征義さん、リブライズの河村奨さん、カーリルの吉龍司さん)にお集まりいただき、座談会を行いました。 この座談会を開催するきっかけとなったのは、2012年に前国立国会図書館長の長尾真さんが発表した「未来の図書館を作るとは」という文章です。館長在任中に「長尾ヴィジョン」という大胆かつ画期的な「未来の図書館」像を提示した長尾さんが、あらためて幅広い論点から図書館の可能性を論じたこのテキストを若い世代はどう受けとめたか、というところからスタートし、率直かつ真摯な議論が行われました(「マガジン航」編集人が入院中だったため、長尾さんがこの文章を発表した経緯にくわしい李明喜さんに司会をお願いしました)。 この「未来の図書館を作るとは」が達人出版会から電子書籍(無償)として刊行される

  • NYタイムズはデジタル企業への脱皮をめざす

    ニューヨーク・タイムズの「Innovation」と題された社内資料であるエグゼクティブ・サマリーの存在がリークによって表に出て、出版界にいる人々の間で話題となった。その後、ソーシャルメディア情報サイトであるMashableがこのサマリーの完全版を入手した。その少し前、ニューヨーク・タイムズの編集主幹であるジル・エイブラムソンが突然解雇され、リークやMashableによる資料公表と解雇になにか繋がりがあるのではないかと憶測を呼んでいる。このエグゼクティブ・サマリーを読んでみた。 1851年に創刊されたニューヨーク・タイムズ。その後、ドイツからの移民の息子で優れた新聞社経営者であるアドルフ・オックスがこの新聞社を買収し世界でも一流の新聞に育て上げた。ニューヨークのタイムズスクエアは、アドルフがニューヨーク・タイムズを42丁目に移転したところからつけられた名前だ。 現在、アドルフの子孫であるサル

    NYタイムズはデジタル企業への脱皮をめざす
  • 児童買春・児童ポルノ処罰法改正が残した課題

    「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(児童買春・児童ポルノ処罰法)が改正された。前回の記事「児童ポルノ法改正の何が問題なのか」(2013年10月10日)では、自民党と公明党、日維新の会の3党合意による改正案ができあがるまでを取り上げた。今国会(第183回国会)では、3党に加えて、民主党と結いの党も加わった5党合意による改正案が提出されていた。 今回の改正のポイントは、「児童ポルノ」のうち、曖昧だと指摘されがちだった「3号ポルノ」について、より明確なものにしたこと、単純所持を禁止した上で、自己の性的好奇心を満たす目的での所持を罰則対象にしたこと、さらに、アニメ・漫画CGについては、児童の権利侵害との関係性に関する調査研究が、3党合意から削除されたことだ。 子どもの性的搾取画像は守られない? 「3号ポルノ」は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって

    hasetaq
    hasetaq 2014/07/04
    海外ではもう既に摘発の優先順位は低いとはいえ、絵画や漫画でも児童ポルノとして規制されてるんだな
  • シンポジウム「電子書籍化の波紋」レポート

    東京都写真美術館で行われていた恵比寿映像祭で、2月22日に「電子書籍化の波紋-デジタルコンテンツとしての書籍」と題したシンポジウムが開催されました。これは当日の昼間に放映された、Google Books にまつわる騒動を題材としたドキュメンタリー映画電子書籍化の波紋《グーグルと知的財産》」と連動したプログラムで、グローバル化やデジタル化の波が「知的財産」や「電子書籍」にどのような影響をもたらすかについて、出版社・弁護士・哲学者・政治家などさまざまな立場から論じた内容です。 登壇者は、写真右から福井健策氏(弁護士)、神谷浩司氏(日経済新聞文化部記者・討論司会)、角川歴彦氏(株式会社KADOKAWA取締役会長)、エルヴェ・ゲマール氏(政治家/前フランス経済・財務・産業大臣)、エリック・サダン氏(哲学者/エッセイスト)、ドミニク・チェン氏(株式会社ディヴィデュアル共同創業者/ NPO法人コモ

  • NDLのデジタル化資料送信サービス体験レポ

    2014年1月21日、国立国会図書館NDL)の「図書館向けデジタル化資料送信サービス」が開始。あわせてサイト「国立国会図書館デジタル化資料」が「国立国会図書館デジタルコレクション」へ名称変更リニューアルしました。 絶版など、国会図書館から各地の図書館へ配信、18都道府県23館で始まる−INTERNETwatch 現時点で、絶版などの入手困難な約131万点が対象。内訳は、1968年までに受け入れた図書が50万点、江戸期・清代以前の和漢書など古典籍・貴重書が2万点、2000年までに発行された雑誌が67万点、1991~2000年に受け入れた博士論文が12万点 サービス開始時点で約131万点なんてまあ素敵な分量!これは街の図書館が平均的大学図書館蔵書数レベルのデジタル書庫を一挙に得られるチャンスなわけです。またこのサービス開始に併せて「国立国会図書館デジタル化資料」名称改め「国立国会図書館

  • 同人雑誌「月刊群雛 (GunSu)」が目指すこと

    小林恭子さんが「マガジン航」に寄稿した「ロンドン・ブックフェア2013報告」を読んで刺激を受け、私が一人で勝手に「日独立作家同盟」を設立したのが2013年9月1日です。「インディーズ作家よ、集え!」を書いた10月31日ごろには、Google+のコミュニティ参加者はまだ70名くらい、自己紹介(参加表明)の投稿をして参加者一覧に名前を連ねた方が30名くらいだったと記憶しています。 それが、「マガジン航」への寄稿から、一気に参加者が増え、稿執筆時点でGoogle+のコミュニティ参加者が197名、自己紹介(参加表明)の投稿をして 参加者一覧に名前を連ねた方が107名という規模になってきました。「作家同士の助け合いによって互いに研鑽し、素敵な作品を生み出せるような土壌を一緒 に育てていきましょう!」という呼びかけに応えてくれた方々が、これだけ多くいたことを大変嬉しく思います。 「月刊群雛 (Gu

  • Bookish買収にみるディスカバラビリティの行方

    ネット時代が到来し、紙でも電子でも欲しいがオンラインで見つかり、すぐに手に入れられるようになった一方で、特に目的もなく屋さんをキョロキョロして「へぇ、こんながあったのかぁ」「わ、これなんだかおもしろそう」「あ、こののこと、このあいだ誰かがよかったって言ってたな」と、今まで読んでみようと思ったことさえなかったを見つける場が少なくなった。 これは「ディスカバラビリティ(discoverability)」と言って、要するにどうやって「未知なるとの出逢い」を補っていくかがこの先の出版事業の課題だ。バーンズ&ノーブルが売れ筋のを大幅にディスカウントするのも、街の屋さんがディスプレイに工夫を凝らすのも、買おうと思っていたの他にも「ついで買い」をしてもらおうと思うからこそ、なのである。 好きのためのSNS Eブックの台頭とともに、そのディスカバラビリティの場として期待されているのが、

  • 図書館をめぐる二冊の本〜新年に考える

    明けましておめでとうございます。今年も「マガジン航」をよろしくお願いします。年明け早々に、図書館に関する面白いが二冊出ました。鎌倉幸子さんの『走れ!移動図書館でよりそう復興支援』(ちくまプリマー新書)と、猪谷千香さんの『つながる図書館〜コミュニティの核をめざす試み』(ちくま新書)です。今年はこの話題からはじめたいと思います。 鎌倉さんは公益社団法人シャンティ国際ボランティア会のメンバー(現在は広報課長)で、東日大震災後に岩手県で被災地の仮設住宅をまわる移動図書館プロジェクト(岩手県からはじまり、いまでは福島・宮城を合わせた被災三県をカバーする「走れ東北!移動図書館プロジェクト」に成長しています)を立ち上げた方。そして猪谷さんは昨年創刊されたハフィントンポスト日版で、公共図書館や地方自治をめぐる取材を継続的に続けてきた記者です。 鎌倉さんにはカンボジアで図書館事業を行ってきた経験が

  • 早起き鳥は文学全集の夢をみる

    ある日、アマゾンのKindle Fire HDでを読んでいたら、プライムユーザー(有料会員)向けにKindleオーナー・ライブラリーという「電子貸」のサービスが日でも始まっていることに気がついた。ひと月に一冊、無償でが読めるというので、さっそく何か面白いがないか物色してみた。 正直、品揃えにはあまり期待はしていなかったが、そこで発見したひとつのに驚いた。そのとは、後藤明生の『挟み撃ち』。講談社文芸文庫版を数年前に買い、読みかけたまま、家の中で紛失してみつからないだったのでありがたい。ダウンロードしてさっそく読み始めた。 後藤明生は1932年に旧朝鮮咸鏡南道永興郡に生まれ、1999年に亡くなった。「内向の世代」と呼ばれた一連の作家の一人で、蓮實重彦や柄谷行人といった批評家が高く評価したことでも知られる。『挟み撃ち』は1973年に河出書房から刊行された作品で、彼の代表作のひとつ

  • 第9回 電子化された書棚を訪ねて

    連載の折り返し地点をすぎ、「これから後半ですよ」ということを前回の話で宣言したわけだが、それから一度も更新しないままなんと半年もの時間が流れてしまった。読者の中には首を長くして、更新を待っていた方もいるのかもしれない。遅くなってしまい、当にすいませんでした。 ノンフィクション作家にとっての この連載以外の取材に取り組んでいたことも、更新が滞った一因である。では、いったい何をしていたのか。いまも続いているの増殖と絡めて、個々の仕事のことについて言及してみたい。 僕が追いかけているテーマのひとつに日の国境問題がある。を何冊か出したので、そろそろ次のテーマへ完全移行したいのだが、そうもいかない。尖閣諸島では付近の海に中国の公船が常駐するようになったし、竹島も韓国の閣僚が毎年夏に上陸するようになったりと、国境問題はここ数年で膠着し、日常化してしまったためだ。加えて昨年の尖閣国有化を巡る裏