ブックマーク / flipoutcircuits.blogspot.com (31)

  • 小さな調べ物:ケイト・マン先生がピンカー先生の反フェミニズム的立場を詳しく教えてくれると聞いて

    スティーブン・ピンカーをアメリカ言語学会の「フェロー」(傑出した業績をもつ研究者その他が選ばれる)およびメディア専門家から除名すべきだという公開書簡が出て,Twitter でも少し話題になった.(追記: shorebirdさんが日語でまとめている) で,そうしたツイートのひとつに,ケイト・マン『ひれふせ,女たち』にピンカーの「反フェミニズム的立場」が詳しく書かれているというものがあった.ぼくはピンカーの著作のファンではあるけれど,べつに彼のあらゆる言動を追いかけてるわけじゃないし,なにかけしからんことでも言っていたんだろうかと,興味を覚えた. とはいえ,訳書はお値段が高いし近所の図書館では利用できない様子だったので,とりあえず原書 Down Girl だけを参照してみると,文で1箇所,脚註で1箇所,ピンカーについてまとまって述べた文章がある.残念ながら,どちらの箇所でもとくに詳しい情報

  • 「公正と公開討議についての書簡」

    私たちの文化的制度は,試練の時を迎えようとしている.人種的・社会的な公正をもとめる強力な抗議が起こり,長らく遅れていた警察改革を求める声が上がっているばかりか,さらに,高等教育・ジャーナリズム・慈善活動・芸術にとどまらず,私たちの社会全域にわたって,いっそうの平等と包摂が広く求められている.しかし,こうした清算は必要ではあるものの,同時に,この清算によって新たな種類の道徳的態度と政治的な姿勢が強化されている.この道徳的態度と政治的姿勢は,イデオロギー面での順応を優先して,公開の討議とお互いの相違への寛容という私たちの規範を弱める傾向がある.公正を求める前者の動きを私たちは歓迎する一方で,後者には抗議の声を上げる.反自由主義 (illiberalism) のさまざまな勢力は,世界中で力をつけており,ドナルド・トランプという強力な同盟者もいる.トランプは,民主主義に対する紛れもない脅威を代表す

  • clip:「諸悪の根源が消費社会論にあるような気がしてきた」

    北田 大澤,内田隆三(…),吉見俊哉,そこら辺が見田山脈ですよね.成熟社会派が多い.僕の師匠でもあるけれども,吉見さんとシンポジウムをご一緒した時,「これ以上経済は発展しないんです」とおっしゃるから,「それじゃダメでしょう!」と返したら,見事に編集サイドで削られましたけど(笑).発想はそうなんだなって,すごくびっくりしました. 栗原 反経済成長,脱経済成長というのは社会科学系にとってドグマなんですよね.だから浜矩子(…)とか水野和夫とか,そういう人たちのほうにばっかり行ってしまう. 北田 1920,30年代ブームというのが,1990年代にあったんですよ.なにかというと1920年代とか30年代というかモダンというものに,批評にしても思想にしても社会学も可能性を見出す時期がありました.吉見さんはその典型.つまり前近代から近代に立ち上がっていく時に,半分フーコー,半分消費社会,これがセットになっ

  • 抜粋メモ:クルーグマン「アベノミクスと一本の矢」

    アベノミクスに言及しているクルーグマンのブログ記事(8月15日)から,ニュースの *ない* 部分を抜粋してみよう: Overall, fiscal policy in Japan has actually gotten tighter, not looser, since Abenomics began, mainly thanks to the consumption tax hike; other measures didn’t offset this much. 全体として,アベノミクス開始いらい,日の財政政策はゆるめて拡大されるどころか逆に引き締められている.主に,消費増税のおかげだ.他の施策は,この影響をあまり相殺しなかった. So all the weight rested on unconventional monetary policy, which did succee

  • 誤解を誘う記事の作り方を学ぶ:NewSphereさまの事例

    やや長文になったので,最初に要点を: ここで取り上げるのは,経済政策の話じゃなくって,ニュース記事の書き方の話. NewSphere は,クルーグマンのブログ記事を参照したと言いつつ,実際にはそこで論じられていない現日銀の政策批判が論じられているかのように誤解させる記事を書いている. この書き方は単純な英文誤読ではありえない. また,参照記事の明示が不適切だ. もっとフェアで誠実な書き方をしてください. 追記:その後,NewSphere の当該記事は取り下げられた.ぼくは,この対応は立派だと思う. イントロ ツイッターの TL で少し話題になっていたのでのぞいてみたところ,《「海外視点」で日を報道》を謳う NewSphere という媒体が,次のような記事を載せていた: 「クルーグマン教授、日銀のQEにインフレ達成効果ないと断言 米誌などは反論」(NewSphere, 2015年3月18日

    誤解を誘う記事の作り方を学ぶ:NewSphereさまの事例
  • クルーグマン「NAIRU の制約とクロムウェルの規則」

    Paul Krugman, "The NAIRU Straitjacket and Cromwell’s Rule," The Conscience of a Liberal, March 6, 2015. 要点だけを抜き出しておこう: 新しい雇用レポートをみると,インフレ率を加速しない失業率 (NAIRU) の推定値近くにまで失業率が下がってきている. だけど,この推定値をあまり真に受けすぎない方がいい――たとえば,1994年頃にも NAIRU 近くにまで失業率が下がったけれど,当時の連銀議長グリーンスパンたちはしばらく様子をみて,実際にインフレ率が上がっているという証拠がでるのを待った.結果は,失業率が4パーセントを下回るところまで行ったけれど,そのときインフレが急進するようなことはなかった.もしもあのときグリーンスパンたちが NAIRU の推定をもとに引き締めに回っていたら,この好ま

  • クルーグマン「ウォルマート:見えざる手にあらず」(2015年3月2日コラム)

    3月2日付のコラムで,労働市場の改善に押されて あのウォルマートが小幅ながらも賃上げを公表したのを受けて,中流社会(やその崩壊)は市場の必然じゃなくてぼくらの選択だと論じている: クルーグマンがウェブ版コラムでリンクしてる New York Times の記事はこちら.日語ニュースでは,次のような記事がでている: 「米ウォルマート、最低賃金38%上げ 国内50万人対象」(日経済新聞,2015年2月20日) 米ウォルマート・ストアーズは19日、米国内で働く時給制従業員の最低賃金を時給7.25ドルから38%増の10ドルに引き上げると発表した。賃上げの原資として10億ドル(約1200億円)を投じる。 以下,コラムの論述をざっとなぞってみよう. 最低賃金引き上げについては,とくに保守派からの反対意見が強い. 保守派たちは――残念ながら多くの経済学者たちの支持を受けつつ――きまってこう論じる.「

    クルーグマン「ウォルマート:見えざる手にあらず」(2015年3月2日コラム)
  • クルーグマン「エーゲ海のワイマール」(2015年2月16日付コラム)

    クルーグマンが『ニューヨーク・タイムズ』のコラムで,ギリシャに過大な債務返済を強制するのは第一次大戦後に敗戦国ドイツに巨額の補償金を払わせようとしたのと同様の愚行だと論じている. Paul Krugman, "Weimar on the Aegean," New York Times, February 16, 2015. 以下,コラムをざっとなぞってみよう.引用部以外は翻訳ではないのでご注意を. 不況のいまは,財政刺激と金融緩和政策を打つべきだと主張すると,きまってワイマール時代のドイツを持ち出して反論する人たちがでてくる.「財政赤字と金融拡大をするとハイパーインフレになるぞ,ワイマールが実物の教訓じゃないか」と彼らは言う.

  • サール「デリダはテロリスト的蒙昧主義をやってる」(インタビュー引用)

    サールのインタビュー Conversations with John Searle (Libros EnRed, 2001)[Amazon] で引用されている「テロリスト的蒙昧主義」の出典と当該箇所をメモっておこう: Searle: With Derrida, you can hardly misread him, because he's so obscure. Every time you say, "He says so and so," he always says, "You misunderstood me." But if you try to figure out the correct interpretation, then that's not so easy. I once said this to Michel Foucault, who was more ho

  • クルーグマン:「リカード等価定理」について区別すべき5点

    ピーター・テミン&ダヴィッド・ヴァインズ「なぜケインズが今日大事なのか」に言及して,クルーグマンが「複数の別々なダメ論証を「リカード等価定理」の見出しのもとに混在させてるように思える」と指摘して,次の5点を区別すべきだと述べている: First, there’s the Say’s Law argument: because spending must equal income, any increase in government spending must be matched by a fall in private spending. “This is just accounting,” declared John Cochrane. No, it isn’t — and it was the remarkable fact that prominent economists we

  • クルーグマン「実業 vs 経済学」(2014年11月2日)

    この月曜のコラムは,日銀の新たな緩和に言及して,これを歓迎する一方,この対策が 5対4 の僅差で承認されたことを指摘し,反対した審議員が実業界寄りの人たちであることに注目している. Paul Krugman, "Business vs. Economics," The Conscience of a Liberal, November 2, 2014. ▼ 冒頭2パラグラフを対訳で見てみよう: 東京にて――アメリカの連銀に相当する日銀行が,このところデフレ終焉に向けて大いに対策を進めている.デフレは,20年近くにわたって日経済を苦しめてきた.日銀の対策には,たくさんお金を刷ったり,もっと大事なこととして,2パーセント目標に達するまでずっとお金を刷り続けると投資家たちに確信させる試みがふくまれる.当初,こうした対策はうまく行っているように見えた.ところが,もっと最近になって,日経済は勢

  • クルーグマンは何を「失敗」と言ってるのか

    ポール・クルーグマンが,『ニューヨークタイムズ』(10月30日付け)のコラム "Apologizing to Japan" で,「日にごめんなさいしなくちゃいけない」と書いている. クルーグマンやバーナンキ元連銀議長は,デフレに陥った日のマクロ経済政策が間違っていると批判していた.もしもアメリカやヨーロッパで同様の経済問題が起きたならずっとうまく対処できる用意があると思っていたのに,いざフタをあけてみたら,日以上に対応がお粗末だった.だから「ごめんなさい」というわけだ. 1. 誤解をさそう新聞記事見出し 日語でも,この発言を伝える記事がいくつかでている. 《ノーベル賞経済学者の「日への謝罪」》(読売新聞 (Yomiuri Online),2014年11月1日配信) 《「欧米経済、もっと悪い」 クルーグマン氏 日に謝罪》(東京新聞,2014年11月1日夕刊) 《ノーベル賞経済学

  • 岩田日銀副総裁の発言書き起こし(財政金融委員会;10月28日)

    2014年10月28日に行われた財政金融委員会での岩田規久男日銀副総裁の発言を,一部のみ書き起こした.ソースは「参議院インターネット審議中継」の録画. ▼ 就任前の「2パーセント目標ができなければ辞任」発言について(34分47秒あたりから,36分17秒あたりまで.) えー,昨年春の,あのー,副総裁の任命に関わる国会での承認の,所信声明では,2年経って,まあ2年,2パーセントの物価目標安定を,できなかった場合には,なにか自動的に辞めるというような,そのような説明に,理解されるようなことになってしまったことを,深くいま反省しております.で,[ヤジ] で,もうその当時もすでに反省して,それが,当の責任の取り方ではないということで,えー,その,昨年の春の,副総裁就任の記者会見においてはですね,私の責任の取り方の説明を,次のようにいたしました. [読み上げる]仮に――それは,昨年の春の就任のときの

  • IMFの世界経済見通し:「次の消費増税」に言及した箇所

    新たに公表されたIMFの世界経済見通しについて解説したロイターの記事に,次のような箇所がある: 「一方、2015年10月に予定される10%への消費税率引き上げについては、予定通り実施するべきとの見解を示した。」 (「IMF、日の14年経済成長率見通しを0.9%に大幅引き下げ」;ロイター,2014年10月7日) ためしに,実際のレポート (pdf) を見てみよう (pp. 20-21): ▼原文: In Japan, aggressive monetary policy easing - the first arrow of Abenomics - has helped lift inflation and inflation expectations, and actual and expected inflation are progressing toward the 2 perce

  • ラジオ書き起こし:TBSラジオ「Session-22:内閣改造を徹底分析!」:その2

    「その1」に続いて,ポッドキャストから主に飯田せんせの発言を書き起こしてみる. 「『内閣改造を徹底分析!』(分析モード)」,Session-22,TBSラジオ,2014年09月03日(水);ポッドキャスト配信. [32:25 - 34:47] 荻上:経済に関しては,こう,自信たっぷり自画自賛,「これからもこの路線を続けていきます,この道しかない」っていうことを,安倍内閣,発表していますけれども,飯田さん,いかがですか? 飯田:まあ,実際のところはですね,安倍内閣の経済政策で成功したの,金融緩和だけなんですよね. 荻上:「だけ」 飯田:ええ,で,実際はですね,金融緩和じたいは,ま,株と為替には明確に効きましたね.で,為替経由で企業業績にも効きましたね. 荻上:はいはい. 飯田:で,景気がよくなったって言いながら,まだ実を言うと,景気がよくなったときって,いちばん上といちばん下が潤うんです.こ

  • ラジオ書き起こし:TBSラジオ「Session-22:内閣改造を徹底分析!」:その1

    ふだんポッドキャストでよく聞いてるラジオ番組に,TBSラジオの「Session-22」がある.先日は,安倍政権の改造内閣を取り上げていて,経済学者の飯田泰之せんせがスタジオゲストに登場していた. 「『内閣改造を徹底分析!』(分析モード)」,Session-22,TBSラジオ,2014年09月03日(水);ポッドキャスト配信. 以下,主に飯田せんせの発言を書き起こす.めんどいので,2回か3回にわけて掲載.(無駄に書き起こしてるけど,なにか特別に意義がある発言だと思ってるわけじゃないので,ご注意.) [16:07 - 17:15] 飯田:実際,97~98年のときよりも,消費の落ち込みはげしいんですよね.で,もっとわるいと思うのが,あのー,メディアにでているタイプのエコノミストであったり,官僚出身のエコノミストとかが,こぞって「想定内です」と.で,ここまで,えー…,4月の自分の予想の倍以上落ち込

  • 批評界隈に見られる「コンスタティブ」「パフォーマティブ」の詮索:東浩紀 (1998)

    もとは哲学者オースティンが講義録 How To Do Things With Words で一時的に考案していた「パフォーマティブ」(行為遂行的発語)と「コンスタティブ」(事実確認的発語)という用語を,批評家・作家の東浩紀氏が独特な使い方で使っている.ここでは,その用法を追いかける資料として,同氏の著作から抜粋しておく. 東浩紀「デリダの可能性の中心を読むために」『批評空間』III-18,1998年,pp.6-9. (下記に抜粋したのは,pp.7-8 の範囲;アスタリスクで囲んだ箇所は,原文では傍点を付す.また,(1), (2) といった表記は原文では数字を○で囲む記号) 第一に *スタイル* の,あるいはパフォーマティヴなレヴェル(試論 II 参照).ここには私たちは主に (1)-(2)-(3) の否定神学的道すじの (1) への抵抗を見ることができます.デリダの脱構築は例えばド・マンの

  • 東先生とのある日のやりとり:「パフォーマティブ」と「コンスタティブ」についての詮索

    なぜか,批評をやっている人たちの間では,言語行為論の初期にオースティンが講義 (How To Do Things With Words) で考案し,その同じ講義で放棄した「事実確認的発語(コンスタティブ)」と「行為遂行的発語(パフォーマティブ)」の区別が,いまも使い続けられている.(ここでは,この用語の定義には踏み込まない.) 3年前に,評論家・作家の東浩紀氏が次のようにツイートしたとき,少し質問をしてみたことがある.とくに目立つ発言を引き出しているわけではないけれど,記録のためにこちらにまとめておく.派手な喧嘩や批判を楽しみにしている人の期待にはまったく応えられないのであしからず. しかし、理系連中は文系をバカと決めつけているようだが、そういう人々は言語行為論とかコミュニケーション論とか勉強したことあるのか? 自然言語にはコンスタティブな真理値とは別にパフォーマティブな効果があるとか、知

    東先生とのある日のやりとり:「パフォーマティブ」と「コンスタティブ」についての詮索
  • クルーグマン@『週刊現代』

    おじさん週刊誌の『週刊現代』に,クルーグマンのインタビュー記事が掲載された(2014年9月13日号, pp.42-45).インタビュアーは大野和基氏.『そして日経済が世界の希望になる』でもインタビューと翻訳をやっていた人だ.有料だけど,ウェブ版もある.(追記:その後,「現代ビジネス」にも無料で読めるバージョンが掲載されている.) インタビュー内容を4つの論点にわけてツイッターでつぶやいたことを,こっちにも載せておく. 論点 (1) 消費増税:これについては完全に失敗,「自己破壊的な政策」と語ってる.対策は,「増税した消費税を一時的にカットすることです.つまり,安倍総理が増税したことは気の迷いだったと一笑に付して,元の税率に戻せばいいだけです」(p.43) いちおう補足しておくと,安倍政権が消費増増税を検討していた頃から,クルーグマンは消費税増税をやめておくべきと言っていた.引用しよう:

    クルーグマン@『週刊現代』
  • カジュアルな場所でも出典を示すべき

    とくにツイッターのような場所では,引用にあたって出典を示す人は,意外と少ない.わざわざ出典を明示するのが大げさに感じられるのかもしれない. だけど,できるかぎり明示した方がいい.主な理由は次の2つだ: 他人がその発言をたどりやすくするために 歪曲を防ぐために 1つ目の理由について.その文章やデータがなにのどこに載っているかをじぶんが知ってるかどうかじゃなくて,そんなものを知らない他人が手間取らずにアクセスできるかどうかが大事だ. こまかい表記法の話は脇に置いて,もっとカジュアルに出典を示す場合にも,たとえば次のような言い方では,第三者が当該の文章・発言を探し出すのにかかる手間(コスト!)は大きい―― 「誰だったかがそう言ってます」(は?) 「クルーグマンがどっかでそう言ってます」(著作がめちゃくちゃ多いんですけど) 「クルーグマンがコラムでそう言ってます」(どこの?) 「クルーグマンが『ニ