言葉の本質に迫る 情報を誰よりも早く、かつ多く送受信することが、この世を生き抜く手段と思い込み、誰もがあくせくしている。 しかし、対照的に、言葉の価値や働きは急速に失われつつあるのではないか。本書はそんな言葉への得体の知れない不信感を払拭し、言葉本来の姿を教えてくれる好著である。しかも、七つの講演の再録集だから、その現場に居合わせ、著者の肉声に直(じか)に接しているような臨場感があり、爽涼感も十分だ。 例えば、「高見順の時代をめぐって」では、昭和の作家、高見順は「文章でなく、文法で書いている」と語る。時間的な経緯や現実的な論理に従って積み重ねられ連ねられる言葉ではなく、言葉が組み替えられたり、対比されたりしてゆくうちに、言葉自身が新しい関係や世界を示すという書かれ方のことである。言葉によって作者自身が、自分の発見に至る。そこにこそ書くことの意味があり、言葉の価値があるという主張が込められて