ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんの対談。前編に続いて、石原慎太郎の著書『天才』について語り合います。 藤田 この本は角栄のいわゆる「金権政治」を肯定しているんですよね。日本を開発するためにやむを得なかったじゃないかと。偉大なる「原父殺し」の顛末を見るような話です。欲望のまま、狂気に駆られて新しい領域を開拓するのが「原父」。次世代は、その恩恵を受けながらも、父の狂気を抑制するために父を「殺害」し、罪悪感で連帯し、「原父」を神話化する――という、フロイトの図式ですが。 飯田 若かりし日の石原慎太郎は角栄の金権政治を批判し、打倒したんだけど、95年に衆議院議員を突如辞職し、その後90年代半ばから後半にかけて書いた『国家なる幻影』では、自分をひいきにしてくれた佐藤栄作だってカネをぽんとよこしてきたし、それが政治だみたいな話を書いているし、角栄については否定しつつも一部