J・M・クッツェーについて詳細に、同時にわかりやすく書く、という離れ業を本書はやってのける。この南アフリカ出身のノーベル賞作家に「中毒」というほど熱中してきた著者は丹念に作家の足跡を追い、翻訳の作業を通して深く作品内部に入りこんでいく。読者は翻訳者の足どりをたどることになる。 たとえばカラードという語の南ア独特の意味、クッツェーという名の発音、そんな単語ひとつのことも、一筋縄ではいかない。複雑に交錯する歴史、所属集団ごとの認識の違いを、文献で調べ、旅先で訊(き)き、作家本人に尋ねて、著者は正確に知ろうとする。物語と語り手の姿を、正確にとらえるために。その熱意には個人的な背景もある。北海道入植者の子孫である著者自身の、故郷の地と先住者への思いが、巻末に綴(つづ)られる。 必然的にこの本は、南アフリカについての本でもある。アパルトヘイト時代の南アは黒人から移動の自由を奪い、肌色の異なる人々の結
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