日本中を揺るがせた“怪物”の巨人入団騒動は1人の男の人生を大きく変えることになった。 憧れのユニフォームに袖を通したスターを尻目に、自らの運命を気骨ある態度で受け止めた男は、“悲劇のヒーロー”に祭り上げられる。世間の同情などどこ吹く風、強気の投球で野球界を駆け抜けた反骨のエースは、引退後に誰もが予想しえない道を歩んだ。 今年1月に幕を閉じた波乱の半生を辿る。 1979年の流行である高いカラーのシャツに水玉のネクタイを締め、すきなくスーツを着こなした様子はとてもプロ野球選手には見えなかった。きれいに櫛目の入った髪は1本の乱れもない。細面の中の大きな目が印象的だが、その日、その目は明らかに充血していた。長い話し合いにようやく決着がついたのだ。もうじき日付けが変わる。夜が明ければ2月1日。野球選手にとっては元日である。「大晦日」の深夜、小林繁は強烈なライトに照らされながら、記者たちの前で口を開い