街中に流れる陽気なクリスマスソング。きらめく赤や黄のイルミネーション。ケーキの箱を抱え、手をつなぐ親子がいる。「俺だって、あんな普通の人生を送れたはずだった」。渡辺数美(78)=熊本県=は、一人住まいの家で昨年暮れ、唇をかんだ。 幼少期に変形性関節症を患い、足が不自由だった。10歳の頃、血尿の治療のため受診した病院で睾丸(こうがん)の摘出手術を受ける。医師からは何の説明もなかった。 中学を卒業する前後、性器の発達の遅れに気をもんだ。母親に尋ねると「小さい時に両方の睾丸ば摘出した」。こうも言った。「先生が『体が不自由な人は、結婚してもこぎゃん子どもができたらいかん』って」 若者の心は深く沈んだ。父親は早くに他界し、5人の子を育ててきた母の苦労は分かっている。それでも-。「何で俺ばこの世に産んだ。何でこんな体にしてしもうたか」。絶望と怒りを抑えられなかった。 ∞ 20歳と40歳の頃。渡辺が交際