山川賢一は新進気鋭の文芸批評家として、これまでに三つの単著『成熟という檻 『魔法少女まどか☆マギカ』論』(2011)『Mの迷宮 『輪るピングドラム』論』(2012)『エ/ヱヴァ考』(2012)を上梓してきた。全て近年話題になったオリジナルアニメーション作品を題材にしたものであり、さらに、いずれも共通の主題を扱った論考になっていると言ってよい。それは最新作『エ/ヱヴァ考』の語彙を借りれば、私たちの正義を堕落させる「偽りのリアリティ」をめぐる問題であり、そこで経験される「ホメオスタシスとトランジスタシス」の葛藤である。 簡単に説明しておけば、偽りのリアリティとは文字どおり虚偽の現実性によって私たちを閉じ込める檻であり、ホメオスタシスとトランジスタシスとはそこで経験される維持と変化の葛藤である。たとえば偽りのリアリティは、処女作である『成熟という檻』ではタイトルどおり「成熟という檻」と名指され、