料理好きだから、おいしいものには目がない。どこかにおいしいものがあると知れば、それがどんなに遠くても、今すぐ出かけて食べたくなる。まったく恥ずかしいくらいに食いしん坊だ。 あくまでも僕の持論だが、一口目、二口目で「おいしい!」と思うものは少し疑うようにしている。たいていそれは、味がわかりやすいということだからだ。素材自体の味は、三口目からじわっとわかるものだ。しかも、よく噛んで、香りをかぎ、舌や喉で味うように、自分から味を探すようにして、はじめておいしさに出会えるというか。まあ、そんな面倒くさい食べ方をしないでいいよ、と言われそうだが、せっかくのごちそうは、空腹を満たすための料理ではなく、本を読んだり、絵を鑑賞したり、風景を楽しむように僕は味わいたいのだ。そんなふうにして、人の心と手で生まれる、おいしさの感動を逃したくないのだ。