現役の阪大院生でもある糸谷哲郎六段の処女作。 本書は一手損角換わりの概論書である。一手損角換わりを理論的に考察することを目的としている。なぜ理論化にこだわったかについては第2章第1節に書かれている。要約すると、一手損に詳しくない人、指したことがない人にも分かりやすく伝えるためである。理論は感覚よりも大雑把にしか理解することができないが、言語化される分共有しやすい。また、理論を学ぶことでその戦法の感覚を体得しやすくなる。 理論書なので、手順の枝葉末節よりも戦法の思想を説明することに重点を置いている。 一手損角換わりの本でありながら、第一章ではゴキゲン中飛車や横歩取り8五飛の話が出てくる。現代の後手番戦法の中での一手損角換わりの立ち位置を説明するためである。ここ数年の将棋界では後手番の苦しさが語られることが多い。例えば渡辺竜王は「後手は後手だから何をやっても苦しい」(将棋世界2013年1月号.