中世ヨーロッパの食卓と言うと、多くの人は欧米のドラマにあるような、敬虔で荘厳、かつ静かな食事のシーンを想像するのではないかと思います。 会食者全員が神への祈りを捧げ、それが終わるまでは誰も料理に手をつけることは許されない。ホストである家長や神父がおもむろに開始の合図をして、ようやくおもむろに各人が食べ物に手をつけ始める……そういったイメージがあるのではないでしょうか。 しかし、このような食事風景は、実はかなり最近になってできたものです。政情が安定し、農業技術が発達して、人々が長い飢えや戦争から解放されるようになった近世に入って、ようやく始まった習慣です。 それまでは、どちらかと言えば豪放で無節操な……例えるとすれば昭和初期の「欠食児童」のような、喧噪と怒号に包まれた食事が多かったようなのです。 犬のようにがっつくのは当たり前。口の中に食べ物をめいっぱい詰め込み、その状態でお喋りをす