更に半時後、雨は雷雨に変わっていた。 傘を差してもぐしょ濡れになる豪雨に通りは無人となっていた。 「おきせ……。待っとれよ!」 褌一本に小刀を落とし差し、菅笠を被った半兵衛は蟹股で雷雨を突いて疾走する。 「急病人だ! 通してくれ!」 既に木戸が閉まった時刻である。顔見知りの木戸番は半兵衛の様子を見て、慌てて木戸を開け拍子木を打った。闇夜じゃ道も分かるまいと、親切にも龕灯(がんどう)まで貸してくれた。 隣町の木戸番に半兵衛の顔は知られていなかったが、送り拍子木で通されており、何よりその格好である。褌一本で棒を手にした姿は、医者を呼びに行く駕籠かきに見えた。 荒れ寺に着いた半兵衛は、龕灯の灯を消して目を闇に慣らした。雨に打たれたが、走って来た熱と酒の力で体はむしろ温まっている。 どうやら一味は既に寝静まっている。半兵衛は小刀を左手で抜き、右手の心張棒を握り直した。 「手入れだ! 手が回った!」