蓮實重彥さんの連載時評「些事にこだわり」第10回を「ちくま」11月号より転載します。長い年月を経て、同世代の日本を代表する大作家との思いがけぬ類似点に気がついたことについて。 「昨夜は」と書き始めはしたものの時刻としてはすでに「一昨日」となり始めており、書き終える頃には「数日前」ということになっていようが、さる九月二十七日に渋谷の上質な映画館で、ジョン・フォード監督の『周遊する蒸気船』(一九三五)について、その上映前に二十分ほどお話をする機会に恵まれた。それが終わってから、その小屋の優雅な女性支配人さまからご褒美に頂戴した芳醇な薫りの珈琲をいまたっぷりとメイカーに入れたところだ。深夜であるにもかかわらず、あるいはそれが習慣化しているのだから深夜であるが故に、できあがった琥珀色の液体にスプーンにたっぷり二杯分の砂糖を入れて時間をかけて賞味し、この文章の構想を改めて思案するつもりでいる。 と、