出版業について、ほとんどなにも知らない。が、ひとりで出版社を立ち上げ、企画を立て、インタビューに人を訪ね、文字を起こし、編集し、自腹を切って印刷し、流通に乗せ、営業にまわる、しかもそれで生計を立てる、ということが大変なことくらい、さすがに想像がつくというもの。だから、ひとり出版社「ユウブックス」の記念すべき出版第1作『リノベーションプラス 拡張する建築家の職能』の見本が刷り上がった翌日、キャリーバックを引き引き、本を届けに私の仕事場にやってきてくれた「発行人」の矢野優美子さんに、出版のこと、そこに至る経緯を、根掘り葉掘り、聞いてみたくてたまらなかったのは、いたしかたがないことだった。 初対面ではなかった。最初にお会いしたのは、私がまだまだ新米の部類だったとき、いちはやく、特集号を出しましょうと言ってくれた「建築文化」編集長・富重隆昭さんの下で彼女が働かれていたときのことで、つまり1999年