私が昨年見た洋画のベストワンは『アンナと過ごした4日間』(08)だ。ポーランドが生んだ伝説の鬼才イエジー・スコリモフスキが17年ぶりに故国で撮った映画である。 舞台はワルシャワ近郊の寒村で、主人公は独身の中年男レオン。彼は家の向かいの看護士寮に住むアンナの部屋を、夜な夜な双眼鏡で覗いている。レオンは、祖母の死をきっかけに、ある日、アンナのお茶に睡眠薬を入れて、深夜、部屋に忍び込み、ベッドで熟睡する彼女の傍らで時を過ごす。映画は、レオンにとっての至福と恩寵に満ちた四日間の出来事を、息詰まるようなサスペンスと絶妙なユーモアを交えて描き出している。 スコリモフスキは1938年生まれ。父はナチスの捕虜収容所で虐殺され、母親もレジスタンス運動に関わっていたため、一時期、孤児院で育った。まるで同世代のロマン・ポランスキーを彷彿とさせる悲惨な幼少期を過ごしたといえよう。実際、詩人でボクサー、ジャズ・
ジェイムズ・エイジー 傑作メモワール『王になろうとした男 ジョン・ヒューストン』(小社刊)には、豪放磊落なヒューストンに相応しく、さまざまな個性溢れる魅力的な人物が登場する。中でも印象深いのは『アフリカの女王』の脚本を書いたジェイムズ・エイジーである。 エイジーは優れた詩人・小説家であり、なによりもアメリカが生んだ最初にして最高の映画批評家だった。「ライフ」に発表した「喜劇の黄金時代」は、チャップリン、キートンをはじめとする偉大なコメディアンたちを復権させた名論文で、小林信彦氏の名著『世界の喜劇人』は明らかに、このエッセイの深い影響下で書かれている。 ジャン・ヴィゴの『操行ゼロ』、ルイス・ブニュエルの『アンダルシアの犬』などのアヴァンギャルド映画を初めてアメリカに紹介したのも彼であり、その功績は計り知れない。エイジーが「タイム」等に連載していた映画時評は、後に「エイジー・オン・フィルム」と
本ウェブページ、高崎俊夫の「映画アットランダム」は、すでに連載終了しております。 加筆修正され、国書刊行会から『祝祭の日々: 私の映画アトランダム』として2018年2月27日に発売されました。 このウェブには、未掲載分20本を残しております。 オーディトリウム渋谷で大規模な「ダニエル・シュミット映画祭」が始まった。第一部は彼のほぼ全作を網羅した「レトロスペクティヴ」、第二部はドキュメンタリー『ダニエル・シュミット――思考する猫』、第三部は「ダニエル・シュミットの悪夢―彼が愛した人と映画」と題し、『歴史は女で作られる』『グリード』など彼が偏愛してやまなかった八本の映画が上映される。 先日、『ダニエル・シュミット――思考する猫』の試写を見せてもらった。私は、パスカル・ホフマンとベニー・ヤールがチューリッヒ芸術大学大学院の終了制作として撮った、この優れたドキュメンタリーを見て、さまざまな思いに耽
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