芸術に関して、決して専門的な知識を問うているのではない課題でレポートを提出させると、「私は芸術については余り知らないのですが…」と書きはじめる学生がつねに少なからずいる。それを読むたびに私は「カチン」ときて、そう自覚しているのなら、もっとしっかり調べて書いたらどうかと思ってしまう。しかしこの言辞の陰には芸術教育のあり方、芸術に関する知識の特殊性、また芸術そのものに対する意識など、様々な問題が絡み合っているように思われる。 実技中心の芸術教育 日本における初中等教育で、図画工作や美術あるいは音楽の教科が担っている役割は決して小さくはない。週五日制のしわ寄せからくる時間数の削減や、美術と音楽を芸術教科へ統合しようとする動きなど、教育現場での危機感は強いものがあるが、少なくとも理念の上で、知育に偏らない情操教育の必要性に異を唱える人はいない。自らの身体を使って表現することの喜び、ひとりであるいは