竹熊健太郎のインタビュー集「篦棒な人々」という本の中で、石原豪人がその半生を語っていて興味深いのだけれど、石原豪人が子供時分に体験したというエピソードが何だか凄い。竹熊:幼い頃の思い出はありますか。 石原:幼稚園時代の話なんですが、母に連れられて、「乃木大将と納豆売り」という芝居を観たんです。 竹熊:「乃木大将と納豆売り」? 石原:知らない? ものすごく流行った芝居なんですよ。日露戦争の後日談を浪曲芝居にしたもので、日本中がこれを唸ったものです。乃木さんは自分が殺した部下の霊を慰めるため金沢に旅をする。そこで雪降る晩に犀川の橋のたもとで納豆売りの少年に出会うんです。「こんな晩に納豆を売り歩いてどうしたんだ」と乃木さんが尋ねる。実はそれが戦死した部下の息子だったわけですね。乃木さんはインパネスを着て、帽子をかぶった金持ちの紳士という風体です。少年は絣の着物を着て膝小僧まる出しで、草履履き。女