『この世界の片隅に』を観た人たちが異口同音に「これはすごい、観た方がいい」と周囲に薦めている。公開館数が比較的少ないため、超大ヒットと呼べる興行収入には達していないものの、そのなかでの本作の支持率や熱量は凄まじく、アニメーションを含めた日本映画に強烈なインパクトと、今後に小さくない影響を与えるような作品になったと言って間違いないだろう。熱狂的な人気を誇る『この世界の片隅に』が、多くの観客に心揺さぶる感動を与え、深く愛される理由を、いくつかの角度からじっくりと考察していきたい。 観る者の心をえぐる作品構造 太平洋戦争のさなかに青春時代を生きたひとりの女と、周囲の人々の生活を丹念に描いていく、こうの史代の同名漫画を原作にした本作は、ほぼ完全再現といえるほど忠実に原作の内容をなぞっている。よって本作は、漫画として描かれた原作の数多くのエピソードをひとつの映画のなかにそのまま詰め込んだことで、かな