長期出張から帰ってきた人に向こうでの生活を訊くと、合宿っぽかったよと言う。一軒家をスタッフ三人でシェアして、一緒に暮らしていたのだそうだ。 部屋はひとりひとつだけれども、ほかは共有だから、朝晩顔を合わせる。もちろん仕事もおおむね一緒にやっていて、起き抜けや寝る前にも、ちょっと会う。年長のチームリーダである彼は、ほかの二人から「おとうさん」というあだ名をつけられていた。 出かける前や帰ってきたあと、彼は彼らに遭遇する。彼らは、朝は深煎りのコーヒーを、夜は氷を入れたグラスに白ワインと炭酸水を注いだものをくれて、おとうさんおはようございますとか、おつかれさまでした、とか言う。そうして自分も同じものを飲む。家庭ではないリビングダイニングの隅と隅で、彼と彼の一時的な同居人は、それぞれ静かにグラスやカップを傾ける。ときどき晩ご飯をご馳走すると、彼らは殊更無邪気に、おとうさんはやさしいなあ、と喜んだ。