アカデミー賞を総なめにし、欧米での評価は高いが…… 今年のアカデミー賞を総なめにした映画『オッペンハイマー』は3月末からようやく、アメリカから8カ月遅れで公開された。重層的な構成、効果的な音響と美しい映像、俳優の名演など、映画技術の点でみるかぎり、見事なできばえになっている。それに比べてあまりに大きな落差があるのが、その薄っぺらな原爆観と思想のなさだ。 技術の高さに見合わない現実。原爆自体、当時の最先端の科学技術と経済力を結集して作られた。そしてそれが大量殺戮に使われたことの重みが、開発を推進した科学者と政治家にはわからない。この映画は結果としてそのことを描いているが、そうした科学者や政治家を超えた視点を提供しているとは、言いがたい内容だ。 最初に指摘しておきたいが、この映画が示す原爆観は、約80年前の1945年8月6日、ハリー・トルーマン大統領が広島で原爆を使用した直後、「これが原爆だ」