特ダネの記憶「北朝鮮日本人拉致事件」 重なった、いくつもの偶然と幸運 17年を隔てたスクープ 阿部雅美 元産経新聞記者 特ダネを書いたからといって、必ずしも優秀な記者とは限らない。私は、その典型だろう。一つの事件(北朝鮮による日本人拉致)で、なぜ17年も隔てて2度も特ダネをものにできたのか、と後輩から問われることがある。いくつもの予期せぬ幸運と偶然とが重なった結果に過ぎない。 「変なこと」、ひと言端緒に現場へ 暇だった。1979年秋、警視庁クラブで仕切り(注・各担当のリーダー)の先輩と2人、警備・公安を担当していた。よど号ハイジャック、連続企業爆破、浅間山荘・連合赤軍――。70年代に続いた公安の季節は終わり、ベタ記事1本書かない月もあった。でなければ、夜回り先で「日本海の方で変なことが起きている」と耳にしても、放っておいただろう。「変なことって何ですか」とは問い返さなかった。まともな答えが