※2022年4月以降、ハーメルン様に転載させていただいております。 戊辰の硝煙をくぐって以来、大久保金十郎という旗本くずれは、心の芯棒がどこにあるやら見当のつかない男になった。 (なにやら、夢のような) と、日に何度思うかわからない。 自分が神田駿河台で二千七百石を食む旗本の長男に生まれたことも。 武門の子として恥かしくない教育を受け、間もなく武芸の方面で群を抜く才を発揮して、衆の羨望を集めたことも。 その名声に半ば引きずられるようにして、幕末函館に馳せ参じ、榎本武揚麾下となり、立て籠もった五稜郭にて官軍相手に奮闘し抜いた鉄火の日々も。 天運我にあらずして、もはやこれまでと降伏し、漸く江戸に帰ってみれば世はとうに「明治」と改まっていたことも。 何もかもがまるで夢中の沙汰であるかの如く、妙に現実感を欠いており、自分で体験したことながら、 (はて、あれは本当にあったことなのか) 今一つ信じきれ
![旗本くずれの姦婦成敗・前編 ―明治の椿談― - 書痴の廻廊](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/0e18a7372be588235ddd9302da63556d348d9e4b/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn-ak.f.st-hatena.com%2Fimages%2Ffotolife%2FS%2FSanguine-vigore%2F20200320%2F20200320173048.jpg)