以前、高血圧と脳梗塞の後遺症による言語障害を患う80歳を過ぎた義父が、大動脈弓部に巨大な動脈瘤を指摘された。 内科医は手術を強く勧めた。内科的管理には限界があるとの判断からだ。義母とともに、相当長い時間をかけた説明を繰り返し聞いたらしい。 相談を受けた私は、手術を押しとどめた。なぜなら、手術に伴うリスクがあまりに大きく、術後に孫(私の娘)と買い物にいける可能性は、明らかに50%以下。血栓で詰まった大動脈瘤が、いつどの程度の確率で破裂するか、客観的なデータが乏しいためだ。 どこで手術するかにもよるが、手術の死亡率は15%を超えるだろうし、術後に脳梗塞の再発・悪化、心筋梗塞の併発、寝たきり状態に続く褥創(床ずれ)の形成、痴呆の進行がみられる確率は決して低くない。 老夫婦は「何やらたいへんな手術みたいだねえ」と言う。結局、2年後に動脈瘤が破裂して亡くなったのだが、それまでのQOL(生活の質)は比