「万機親裁体制の成立 ―明治天皇はいつから近代の天皇となったのか―」 本研究科教授 現代史学 永井 和 はじめに 明治維新の際に、新たに成立した政府・国家の最も重要な政治理念として「天皇の万機親裁」なるものが定立され、それ以降約80年にわたり、日本の統治制度はこの政治理念により大きく拘束されつづけた。しかし、この政治理念の定立とその現実化との間には少なからぬタイムラグがあった。なぜなら、天皇が日常的に万機を親裁する体制ができあがるのは、明治維新から10年たった西南戦争後のことだったからである。国立公文書館に所蔵されている明治期の太政官文書を用いて、このことを実証するのがこの報告の目的である。 「万機親裁体制」とは「国政上の重要事項すべてについて天皇が最終的決定権をもち、天皇の決裁によってはじめて国家意思が最終的に確定される、国家意思決定システムである」と定義できるが、それ自体は抽象的な存