デビュー前の世界行脚の話 天一の略伝にはいくつか「法螺」話があることは良く知られている。例えば、引用されることの多い『技芸偉観』には天一がデビューする前のことが書かれているが、そこには次のようにある(※)。 幸いにして米國の紳商ジョ子ンスーと云へる人の聘顧を得て、終に米國に伴ひ 行き三ヶ年の約定にて同地の各都會に興行し、 紐育(ニューヨーク)、 慕士頓(ボストン)、 桑港(サンフランシスコ)、 費府(ヒラデルヒア) 等にては最も大喝采を博し、東洋第一の奇術師なりと 稱(たゝ)えられ「メルキュリー」 新聞記者の如きは、米國人中最も鋭利なる眼力を有する者と雖も天一か變幻を 看破するを能はすとて、口を極めて稱賛し其名譽嘖々として北米の天に轟きしは、 實に廿六歳の秋なりき、夫より進んで英國に赴き、同國の奇術師ホフマン氏に 就きて、全く西洋奇術の秘奥を奪い、氏と倶に、 倫敦(ロンドン)、 壹丁堡(エ