ローマ教皇ベネディクトゥス16世が退位するというニュースが報じられた。ローマ教皇の退位は一四一七年以来、およそ六〇〇年ぶりのことになる。その六百年前のローマ教皇の退位について、その歴史の流れを簡単にまとめておきたい。 1)アナーニ事件まず、一四一七年からさらに百年余り遡った、一三世紀末の、ローマでは無くフランスについて語らなければならない。 当時、現在のフランスにあたる一帯をほぼ支配下に収めつつあったのがカペー朝であった。その全盛期を築いたのがフィリップ4世(在位一二八五~一三一四)である。その美しい容姿から端麗王と呼ばれ、聡明で、政治力に長けたリアリストである一方で、野心家で、陰謀を好み、血も涙も無い冷徹な王であった。 フィリップ4世にとって、当面の敵はイングランド王エドワード1世である。一二世紀にフランスの大部分とイングランドを統べる強大なアンジュー帝国を築いていたプランタジネット朝と