脳細胞が死滅し記憶が消えていくアルツハイマー病 アルツハイマー病は高齢者に降りかかる最悪の不運の一つだ。この神経変性疾患に侵されると生涯の記憶がゆっくりと消えてゆき、やがて愛する人々のことさえ思い出せなくなる。長く生きた末に迎えるきわめて残酷な終焉しゅうえんである。 この病気の特徴は脳にタンパク質のプラークが現れることだ。このプラークはアミロイドβと呼ばれるペプチド(鎖状につながったアミノ酸)が凝集し、小さな塊になったものだ。この塊ができる理由はわからないが、これが脳内で炎症を引き起こし、やがて脳細胞を死滅させる。 そうであれば解決策は明らかだ。この塊を除去するか、そもそも塊ができないようにすればよいのだ。だが、それは言うほど簡単なことではない。なぜなら脳は血液脳関門で守られているからだ。先に述べたように、このため脳の薬の開発はきわめて難しい。 アルツハイマー病の治療薬はアミロイドβの塊を