文字は、本来、ある時代の特定の言語を表記するために考案された記号のあつまりです。たとえば、漢字は中国語、ブラーフミー文字はプラークリット(古代インドの言語)、アラビア文字はアラビア語というぐあいです。しかしこれらの文字が故地から遠く伝播し異なる言語を表記する場合、さまざまな問題に直面することになります。それぞれの文字文化圏における、ユニークな受容のしかたを見てみましょう。 アラビア系文字文化圏は、イスラーム教の伝播とともに広がった文字文化圏です。「アラビア文字で書かれたアラビア語のコーランのみがコーランである」という考えで明らかなように、イスラーム教とアラビア文字とは密接な関係があります。この文字は、伝播した先の新しい言語の音声を表記するために、基本アラビア文字に特定の符号を加えた文字を追加していきます。たとえば、イランのペルシャ語で4文字、パーキスターンのウルドゥー語でさらに3文字という