あなたは牢屋に入れられたという経験をお持ちだろうか。私はと言えば、たった一度だけそのような経験がある。正確に言えば、牢屋ではなく留置所だったが。そこはとても居心地の悪い場所だった。私よりも20センチは背の高い警官(おそらく柔道2段は確実の屈強そうな男だった)に促されて入ったその場所で私は「こんなところに入れられたら悪いことをしていなくても自供をしてしまいそうだ」と思った。 警察署の建物の日当たりが悪いところに留置所は置かれていて、一面コンクリートで出来た床と壁は夏でもひんやりとしていそうに見えるのだが、コンクリート製だと思われた床と壁は、実はコンクリートではなく、一見いかにもコンクリートで来ているように見える実に精巧にできた偽コンクリートであった。感触は硬いコンクリートのそれではなく、なんだかぶよぶよしている。内部へと足を踏み入れると生肉に触れたような感覚がスニーカー越しに伝わってくるので